大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 昭和43年(家イ)644号 審判

国籍 韓国 住所 東京都

此川恭三こと申立人 張栄賢(仮名)

相手方 浜田ヤス(仮名)

主文

申立人と相手方との間に母子関係が存在することを確認する。

理由

一、申立人は主文と同旨の審判を求め、その事由として述べるところの要旨は、

1  申立人は、韓国の戸籍上父申立外亡張慶哲(一九六八年-昭和四三年-一月一五日死亡)と末永たつとの間に一九二六年(昭和二年)三月二一日京都府加佐郡○○○町字○四九番地において出生した庶子であると記載されているが、真実は右亡張慶哲と相手方との間に一九二五年(大正一五年)三月二一日前記場所において出生した庶子である。すなわち、相手方は、一九一四年(大正四年)六月二五日申立外浜田良市と婚姻したのであるが、一九二三年(大正一三年)頃右浜田良市が家出して所在不明となり、生活が困難となつた折柄当時京都府加佐郡○○町○○において隧道工事に従事していた右張慶哲から、同人の飯場の飯炊をすることを勧められ、同人の飯場の飯炊をするようになり、間もなく同人と関係を生じ、以来同人が死亡するに至るまで同人と事実上の夫婦として同棲し、その間に一九二五年(大正一五年)三月二一日申立人を、一九三六年(昭和一二年)二月一日申立外張文政をそれぞれ儲けたのである。そして右張慶哲は申立人および申立外張文政の出生に際しては、いずれも庶子出生届出をしたのであるが、他人にその届出を依頼したため、右申立外張文政については誤りのない届出(もつとも母である相手方について旧姓である東で記載されている)がなされたのに、申立人については、母を申立人と記載せず、全然架空人である末永たつと記載した届出(出生年月日も一年遅れている)をしたため、前記の如き戸籍記載がなされたのである。

2  申立人は、かねて日本国に帰化したい希望を有し、現在その申請手続中であるが、いずれ帰化が許可せられた場合このままでは、日本戸籍に韓国戸籍の記載どおり、母が末永たつであるとの誤まつた記載がなされてしまうので、母が相手方である旨真実に合致した正しい記載がなされるように、申立人と相手方との間に母子関係が存在する旨の確認の審判をえたく、本件申立におよんだ

というにある。

二、本件につき、昭和四三年五月一一日に開かれた調停委員会の調停において、相手方と申立人との間に母子関係が存在することを確認することにつき、当事者間に合意が成立し、その原因たる事実についても争いがないので、当裁判所は本件記録添付の各戸籍謄本、石川県○○市立小学校長口蔵義雄各作成の申立人の卒業証明書および成績証明書、申立人の帰化許可申請書の写し、当裁判所の嘱託による福井家庭裁判所小浜支部家事審判官高津建蔵の相手方に対する審問調書、並びに当裁判所の申立人に対する審問の結果によつて必要な事実を調査したところ、申立人の主張する一の1ないし2記載のとおりの事実を認めることができる。

三、さて、まず本件において、相手方は福井県小浜市に住所を有する日本人であり、申立人は韓国人であるが、日本東京都内に住所を有しているので、わが国の裁判所が本件につき裁判権を有することは明らかであり、また本件相手方の住所は前記のとおりである以上、当裁判所は、本件につき本来管轄権を有しないのではあるが、申立人の勤務の都合上相手方住所に出頭することが困難であつて、自庁処理を必要とする特別の事情が認められるので、当裁判所はとくに本件を処理することとする。

四、そこで、本件の準拠法について考察するに、本件は、韓国人と妻以外のある女性との間に出生したとされている父の認知のある婚外子(庶子)が、実際は韓国人と妻以外の別の女性との間に出生した子であることを理由に、その別の女性との間の母子関係の存在確認を求めているのであつて、結局のところ婚外母子関係成立の準拠法如何の問題に帰着し、この点については法例に直接の規定はないが、当裁判所はこの場合法例第一七条を類推して、子の出生当時の母の本国法が準拠法となるものと解する。したがつて、本件においては、申立人が自己の母であることを主張している相手方の申立人出生当時の本国法である日本法が準拠法となるものと解される。

日本民法によれば、婚外母子関係の成立は、一般に認知を要せず、母の出生分娩の事実によるものであり、本件においては、前記認定の如く、相手方が申立人を出生分娩したことは、明白に認められるところであり、したがつて、申立人と相手方との間には母子関係が存在することを確認することを求める本件申立は理由があるといわなければならない。

よつて申立人と相手方との間に母子関係が存在することを確認する旨の当事者間の合意は真実に合致し正当するものと認められるから、当裁判所は調停委員大曲重義および同大沢春子の各意見を聴いたうえ、家事審判法第二三条第二項により、主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例